(たぶん)2時間でまわる三峯神社

正月に大渋滞・大混雑の洗礼を受け、再チャレンジの機会をうかがっていた三峯神社探訪。4月も半ば。初詣シーズンも終わり、道中のアイスバーンもないでしょう。ってことで巡って参りました。題して『凡庸ガイド (たぶん)2時間でまわる三峯神社』であります。お楽しみください。なおタイトルロゴはパロディであり、本記事とN本放送協会は一切関係ありません。

おことわり: 三峯神社は『フリー素材としての配布を目的とした写真撮影』を禁止しています。ライセンスの関係上works.nagoya832.netには掲載できませんのでこちらに投稿します。写真の再配布はご遠慮ください。

今回のルート(イラストは三峯神社HPより転載)。不審者の軌道だ。よい子は真似しないでね。

三峯神社は埼玉県秩父市の山中、秩父多摩甲斐国立公園の域内に建つ神社であります。関東随一の(こういう俗な言い回しはアレですが)パワースポットとして有名らしい。そしてなんと言っても秩父・多摩・長野・山梨に伝わるオオカミ信仰の総本山的なところでもあります。今回はこの辺をバシバシつついていきたい。

観光道路沿いの桜は少し見頃を過ぎ、桜吹雪が舞っていました。そんな激エモシーンの中をひた走り、たどり着いたのは駐車場入場待ちの車列。ああ、時期関係なく並ぶ感じですか。まあ三が日に比べれば遙かにましですがね。

三ツ鳥居

いざツアー開始。今回の想定所要時間は(たぶん)2時間であります。スタート地点はお馴染みのここ。みんな知ってるね。鳥居にも種類がいくつかあって、三ツ鳥居(三輪鳥居)もそのうちの一つ。だけど関東には3カ所しかないレアキャラらしい。

しかし今はまだ三ツ鳥居をくぐりません。なんと・・・。左に見える建物へ向かいます。

1. 秩父宮記念 三峰山博物館

冬季期間中は観覧できない博物館です。館内撮影禁止。

なんとニホンオオカミの毛皮が(日光と照明で日焼けしないような形式で)常設展示されています。これがなかなかの大きさ。夜道後ろからついてきたら普通におっかないニホ。

三峯神社がかつて寺だった頃のあれこれも展示されています。三峯神社の成り立ちは複雑で、神社として興ったものの一度廃絶。神仏習合の修験場として再興を果たしたところ、明治の廃仏毀釈で神道へ一本化。境内の寺は廃止されたという経緯があります。明治政府の流れを汲む方々としては深入りしてほしくないアレかと思いますが、過去の資料を変に隠さず、ないがしろにしないあたり好感が持てますね(何の立場じゃい)。お札の版とかもあって、信仰の裏側をうかがい知ることが出来る興味深い施設です。皆三ツ鳥居にばかり目が行って気がつかないのか、博物館の中はひっそりとしていました。MOTTAINAI。割とオススメしますニホ。

さて、拝殿へ参拝・・・は最後にしましょうか。土産物店が建ち並ぶ道を進んでいきますよ。どうやらここ、結構大事な道らしいんです。

2. 奥宮 鳥居

青銅の鳥居が見えてきました。奥宮と彫られた額が・・・私たちが来た道を向いていますね。

ほほう・・・さてはこの道、拝殿から降りてきて奥宮へ向かう参道ということかしら。古代の修験者たちはここを通っていったのかもしれません。

道へ戻り、駐車場入場待ちの車列を眼下にしばらく歩きます。春先にしてはちょっと暑いくらいの陽気です。

3. 裏参道 鳥居

道の分岐で出くわしたのはいい感じに朽ちて趣のある鳥居。でもどうしてここに?

どうやらここがもう一本の参道、いわゆる裏参道。ここまで辿ってきた道と表参道こそが古来よりある参道で、俗な縁結びゾーンがある上の道は新しく開かれた参道(便宜的にシン・裏参道と呼ぶ)のようですね。実は他の道も観光地化するにつれて新しく敷設された道なのかもしれません。知らんけど。

ここで折り返し、シン・裏参道を進みます。ふと両脇に目をやればどちら側も下り斜面。ここは紛れもなく尾根の上です。標高約1060メートル、ちゃっかりとんでもない場所を歩いています。

4. 遠宮(御仮屋様)

大口真神(オオカミ)をまつる社。裏参道から登る石段は封鎖されていました。

実は金櫻神社(甲府市)もオオカミ信仰の地としてリストアップされていて護符の授与はあるものの、専用の社とかそういうものはありませんでした。さすが本場では扱いが違います。

マカミ様にご挨拶。いつもありがとうございます。オオカミは人里離れた山奥に潜んでいることへの配慮として、社も拝殿から離しているとのこと。おかげで存在に気付かず帰って行く人も少なくないかと思われます。是非ここまでお越しくださいね。

シン・裏参道を抜け、拝殿前の行列をすり抜けて表参道を逆走していきます。ちなみに石段は左側通行です。他の参拝客から苦言を呈されぬようお気をつけあそばせ。経験者は語る。

5. 隨神門

旧称仁王門。随分とド派手でありますな。お寺にあるアレのイメージと同様、仁王像が置かれていたものの廃仏毀釈の際に撤去。代わりに置かれているあの像は何だったのだろう。調べておきます。いかがでしたか?

6. 奥宮礼拝殿

三峰山の向かい、妙法ヶ岳の山頂に立つ奥宮を拝む場所です。奥宮まではクサリ場もあるガチ登山ルートらしいので間違ってもビーサンでは行かないように(実際そんな会話が聞こえてきましたからね)。

良い眺めです。礼拝殿と言っても(装飾されてはいますが)よくある公園の展望台みたいな所にお賽銭箱とお供え物の台があるだけ。目の前の光景を絵画や写真に見立ててしまうような、この表現がたまらないのですよ。この地を踏みしめ私たちは生きている。そういうロマンをくすぐってくる神道は非常にしたたか。ニクいね、三峯。失礼いたしました。

僕が死んだら遺灰を奥多摩の山中に撒いてもらって、法要的なものはお堂じゃなくて屋外で山に向かってやってもらうのもカッケェな~と思い始めています。命が尽きたら自然に還ってゆきたいというエゴイズム。法令的にアレかもしれませんし、そもそもそんな面倒を見る人もいないのですがね。ヘヘッ。

7. 日本武尊像

明治維新100周年を記念して建てられたらしい。手デカっ。ビンタで東国も瞬殺か。感想が雑過ぎる。

さて、表参道を戻ってお待ちかねの拝殿へ向かいます。

至る所にオオカミ像。関東の各地に講が結成されていて、様々なものを奉納しているようです。三峯神社の強さがうかがえます。ピクサーの映画に出てきそうなお顔をしてはる。

8. 拝殿

東照宮建築でお馴染みの色彩鮮やかな権現造。装飾一つ一つにも意味がありそうです。こういう情報も三峯さんサイドで発信してほしいところ。してたらすみません。

しかし人気のスポット(+桜のシーズン)であって参拝客が多い。手を合わせてじっくりと思いの丈を吐露している暇がないのはもどかしいところ。ならばお札をもらって自宅でまつれば良いじゃない。それはそう。SNSと同様、神社も分散型の時代ですぞ。

9. 摂末社

お帰りのルートに立ち並ぶ社。月讀・猿田彦・稲荷・住吉・菅原などなど全国津々浦々のミニ神社が集う場所であります。キミの推し神に手を合わすべし。

片っ端から柏手を打ってお参りしている参拝者もいました。よくばりさんか。

シン・表参道を抜け、三ツ鳥居より退場。そういえばくぐってなかったな。以上でツアー終了です。ここまでの所要時間は(たぶん)2時間。お疲れさまでした。

しかし本当に人が多い。もちろん参拝客で賑わうのはよろしいことかと思いますが、この混雑を経験すると(事実上)撮影禁止の御触れを出す気持ちが理解できます。観光資源であることと厳粛な祈りの場であること、そのバランスについて考えさせられてしまいました。


ヒトとオオカミ

三峰山博物館の入口にあったオオカミにまつわる伝承の展示。内容は簡素ですが、実に興味深いものでしたので僭越ながら紹介させていただきます。

しっぺい太郎

ある村では毎年ランダムな家の屋根に(文字通り)白羽の矢が立ち、その家は娘を生け贄に捧げなければならなかった。まあなんてこと。旅の和尚がそんな話を聞き、村を救うべく祭りの様子をうかがうことにした。
祭りの夜、怪物(猿の妖怪らしい)が「信濃の光前寺のしっぺい太郎に知らせるな」と歌いながら置き去りにされた籠の中の娘を(FATALITY)すさまを和尚は目撃する。マリオとかのボスキャラみたく弱点を強調。親切じゃん。
ということで和尚は信濃国中をまわり光前寺を探し当てた。驚いたことにしっぺい太郎は寺で世話をしているオオカミだったのだ!
事情を聞いた光前寺の住職はしっぺい太郎のレンタルを快諾。次の年、和尚と村の人々は生け贄の娘に代えてしっぺい太郎を籠に入れるイケズを働いた。その夜、村中に響き渡る(FATALITY)の声!!怪物は死んだ。スイーツ(笑)

館内にいた別の観光客が「しっぺい太郎ってゆるキャン△に出てきたヤツじゃん」とツレに話しているのを聞きました。ゆるキャン△は未履修ですが、早太郎おみくじというものが作中に登場するのを知っています。この早太郎としっぺい太郎が同じモチーフであるとのこと。はぇ~。

しっぺい太郎に限らず、バナナ型神話のように似通った伝承や伝説が世界各地に点在していることがあります。様々な場所で築き上げてきた文明も、ルーツを辿っていけば思いのほか同じものにあたるのかもしれませんね。イッツ・ア・スモールワールド。

送り狼

オオカミがよそ者を見つけると、自分のテリトリーから出ていくまで後を追うという習性があるとのこと。これを人間がよろしく解釈をしたとされるのが『夜道を行く最中、背後にオオカミの気配を感じたら転んだりしてはいけない』という内容の言い伝えです。転んだり逃げるなどして本能的に刺激すると(FATALITY)されてしまう。しかし刺激せず満足するまでついて来させるだけならどうだろう? 他の脅威を寄せ付けず、まるで護衛をしてくれているようである。オオカミは悪でもあり、善でもあるのだ、と。

古来より家畜を利用していた諸外国に対し日本にはその文化がなかったので、家畜を襲う害獣という側面で捉えることがなく、むしろ田畑を荒らすシカやらイノシシをボコしてくれる益獣とみられていた。しかし強く獰猛な生き物であることに違いはなく、二面性のある存在として描かれているのかもしれません。

明治期に入り、過度な開発により山林が減って住む場所を追われ、さらに狂犬病の流行が追い打ちをかけてニホンオオカミは姿を消したとされています。それから120年くらい。(歴史のスケールにおいては)比較的短い時間だからこそ、その存在がおとぎ話や伝説に昇華していくさまをリアルタイムで体感しているような、そんな感情をくすぐられてしまいます。

かつてのように、獣害を減らすためオオカミを再導入しようという意見もあります。私が思うに・・・令和の世にオオカミが甦ったところで、もはや現代は彼らにとって住みにくい環境であることに変わりはない訳です。それはいわゆる動物愛護的な観点からしてどうなんでしょう。もういないけど、実は今もどこかの森林を駆け回っているかもしれない。そんな神秘的な存在であり続けるほうが良いのではないでしょうか。だってその方がカッコイイじゃない。(了)


参考リンク

秩父 三峯神社
https://www.mitsuminejinja.or.jp/

三峯神社 – 寺社探訪
https://jishatanbou.com/entry/2022/12/04/000000

【三峯神社(埼玉県秩父市・裏参道コース)】 / むろ監督さんの雲取山・鷹ノ巣山・七ツ石山の活動日記 | YAMAP / ヤマップ
https://yamap.com/activities/17031419/article

狼信仰 : 歴史と素適なおつきあい
https://rekisisuki.exblog.jp/24624521

「日本人とオオカミ 世界でも特異なその関係と歴史」感想と考察 | セミブログ
https://semiyama.com/japanese-wolf/


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